変化の続く日本の教育環境の中で、保護者の間では「子どもが授業中だけでなく、日常生活でも集中力や注意力を保てるのか」という不安が高まっています。また、近年の研究では子どもの認知発達や学業成績に影響を及ぼす重要な傾向が明らかになっています。 *1)
本記事では、子どものメンタルヘルスと注意力の関係をデータに基づいて解説し、家庭で取り入れられる工夫やトレーニング方法をご紹介します。
最新の調査データは、懸念すべき状況を示しています。2024年に発表された全国規模の人口ベース研究(2017年から2021年のデータを分析)によると、子どもから大人まで「注意や集中に関する課題」を抱える人の割合は年々増加しており、特に男子は女子の3.5〜4.1倍と高い傾向が見られました。*2)
この研究は、日本全国で約1700万人を対象に実施されたもので、日本の子どもの注意関連課題に関する最も大規模な分析です。この結果は、単独の事例ではなく、一貫した増加傾向を示している点で特に重要です。
2022年から2023年にかけて、5つの公立学校で2,433人の生徒を対象にした研究では、生徒の5.4%が注意力に関する問題を含む最も多くの日常的な健康問題を抱えており、これらの生徒はその後、うつ病や不安症状を著しく多く示しました。 *3)
これは、注意力の問題がより広範なメンタルヘルス課題へと連鎖する可能性を示しています。
最近の研究により、注意力の困難と学業成績との関連性がますます明確になってきています。研究結果は一貫して、注意力の課題を抱える子どもたちが教育の場で大きな困難に直面していることを示しています。注意力の困難が顕著な生徒は、学業成績が振るわない可能性が高いことが報告されています。さらに教室内での観察では、授業が始まってからおよそ10〜15分で多くの生徒の集中が途切れることが分かっており、学習環境で持続的な集中を支援する新しい工夫の必要性が浮き彫りになっています。*4)
こうした影響は学業にとどまりません。注意力に課題を抱える子どもは、スポーツの成果や友人関係、自信の面でも困難を経験しやすく、それが発達全体に影響を及ぼす悪循環となる可能性があります。
日本の家庭は、子どもの注意力の管理において前例のない課題に直面しています。たとえば、2024年3月に発表されたこども家庭庁の令和5年度調査によると、小学生(10歳以上)の42.9%、中学生の78.7%、高校生の97.4%がスマートフォンを使ってインターネットにアクセスしており、日常生活におけるスマホ依存の高さが浮き彫りになっています。*5)
教育の現場自体も影響を受けており、日本の小学校教師は週平均54.4時間の勤務時間を報告しており、OECD諸国で最も長い勤務時間となっています。これは、多様な生徒のニーズに対応するための注意と支援の増加が要因の一つです。*6)
それでは、子どもの注意力の課題について家庭で何ができるのでしょうか?
最近の研究では、親が家庭で子どもの注意力の発達を支援するために実施できる数多くのアプローチを検証されています。
「2分間チャレンジ」──部屋の中の物をひとつ選び、2分間じっと見つめる──というシンプルな取り組みがあります。これは、ひとつの対象に意識を向け続ける練習となり、集中を維持する感覚を養うのに役立つとされています。マインドフルネスの一種であり、継続することで少しずつ集中しやすさを高めていくことが期待できます。
運動は気分を前向きにし、脳への血流を促すことで、子どもが集中しやすい状態を保つサポートになると考えられています。たとえばトランポリンで跳ねる、障害物コースを作って遊ぶ、ヨガのポーズをとるといった体を使う活動は、認知機能に良い刺激を与えたり、ストレスを和らげたりする効果が期待できます。
また、深呼吸のエクササイズ(5回ゆっくり吸って吐く)は、神経の働きを落ち着かせ、不安をやわらげるサポートになり、注意を再び向け直すきっかけにもなります。こうしたシンプルな方法は、難しい場面で集中を取り戻す助けとなるでしょう。
パズル、脳トレ、カードゲーム、違い探しゲーム、ペアマッチングゲームなどは、集中力を養うゲームやエクササイズとして有効で、子どもの視覚的、分割的、持続的な注意力を支援します。
さらに、日本の伝統文化も集中を育むきっかけになります。書道は集中力や忍耐力を養いながら美しさを表現する実践であり、折り紙は根気や丁寧さ、手先の巧みな動きを必要とします。こうした文化活動は楽しみながら集中を意識できる点で、子どもにとって良い経験となります。
現代の神経技術は、注意に関するトレーニングに活用できる新しいアプローチを提供しています。Neeuroの「Cogo」注意トレーニングプログラムは、シンガポールで行われた研究において、多くの子どもにおいて集中や注意に関する変化が観察されたと報告されています。*7)
特に、日本のご家庭に関連する点として、参加者の子どもたちが「ゲーム形式のトレーニングが集中しやすくなるのに役立った」と答えていることが挙げられます。また、自宅でのトレーニングが、専門機関での実施と同程度に取り組みやすいことが示唆されており、保護者が家庭の中で子どもをサポートする一助となる可能性があります。
さらに、注意だけでなく幅広い認知トレーニングを目的とした「Memorie」も提供しています。これは、注意力・記憶力・意思決定力・空間認識力・認知の柔軟性などを意識して設計されたゲームコレクションで、神経科学者や心理学者が監修しています。日本語にも対応しており、楽しみながら認知トレーニングに取り組めるよう工夫されています。
年齢に応じた期待値:注意力の持続時間が徐々に発達することを理解する
バランスの取れたテクノロジー利用:年齢に応じたデジタルデバイスの利用ガイドラインに従う
日本の子どもたちの注意力の発達に直面する課題は現実的で拡大傾向にありますが、克服ができる可能性もあります。日本の学校では、子どもの社会感情的スキルを向上させ、メンタルヘルス問題を軽減する目的で、普遍的な学校ベースの社会感情的学習プログラムの実施が拡大しており、これらの課題に対する機関の認識が示されています。*8)
伝統的な方法、現代のテクノロジー、そして親の一貫したサポートをうまく組み合わせることで、子どもたちが集中や注意を意識しやすい環境を整えることができます。大切なのは、早めの取り組みと継続性、そして子どもが楽しみながら取り組める工夫を取り入れることです。
現在、日本の保護者はこれまで以上に幅広いサポート手段に触れることができます。日本文化に根ざした伝統的なマインドフルネスの実践から、最新のデジタルツールまで、日常的な簡単なエクササイズや体系的なプログラム、遊び感覚の取り組みなど、選択肢は豊富にあります。こうした工夫を取り入れることで、子どもが集中しやすい習慣を育むきっかけとなり、学びや成長を後押しすることにつながります。
References